象牙細工
2025.12.12

象牙の置物や根付、印鑑などをお持ちの方の中には、「象牙の国際取引はなぜ規制されているのか」「海外では取引が禁止されていると聞くけれど、自分の象牙はどう扱えばいいのか」と不安を抱えている方も多いでしょう。とくに近年は、ワシントン条約(CITES)による国際取引規制が強化され、海外への持ち出しが厳しく制限されるようになりました。本記事では、象牙の国際取引規制が始まった背景や、CITESの仕組み、日本国内での売買に関する法律、そして安全に査定・処分するためのポイントをわかりやすく解説します。象牙の扱いに迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
象牙は古くから高級素材として珍重され、印材や装飾品、彫刻品として世界中で取引されてきました。特に19世紀後半〜20世紀にかけては、象牙の需要が爆発的に増加し、アフリカを中心に大量の象が捕獲されました。当時は国際的な規制がほとんどなく、象牙を求めた商人やハンターが利益目的で乱獲を拡大させたことが大きな問題となりました。象牙は加工すると美しく耐久性も高いため、ピアノ鍵盤、ビリヤード球、細密彫刻など多方面で消費され、需要が止まることがありませんでした。こうした歴史的背景が、のちの国際規制につながる大きな要因となっています。
象牙需要の拡大に伴い、アフリカゾウの生息数は急速に減少しました。特に1960年代〜1980年代にかけて密猟が深刻化し、一部地域では個体数が半減するほどの危機に陥りました。密猟者は象牙を高値で売るため、保護区の象まで標的にし、生態系にも大きな影響をもたらしました。象の繁殖サイクルは長いため、数が減ると回復に時間がかかることも問題です。国際機関や環境団体は密猟の拡大を世界規模の問題として捉え、象牙の流通を抑制しなければアフリカゾウが絶滅に向かう危険性が高いと警鐘を鳴らすようになりました。
乱獲と密猟による象の激減、そして象牙の国際流通が密猟を後押ししているという事実が明らかになり、国際社会は象牙取引を制限する必要性を強く認識しました。特に1980年代後半になると、違法象牙が世界市場に大量に流れ込み、このままでは取り返しのつかない事態になると判断され、各国は協議を進めました。こうした流れの中でワシントン条約(CITES)が象牙取引を規制する中心的な枠組みとなり、最終的に象牙の国際取引が原則禁止される決断が採択されました。
CITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は、国際的に絶滅が危惧される動植物の取引を管理するための条約です。附属書という分類体系に基づき、危険度に応じて取引の可否を決めています。附属書Ⅰは原則取引禁止、附属書Ⅱは管理下での取引を許可、附属書Ⅲは特定国が保護を要請している種を対象とします。象牙はこの附属書分類に基づき、国際取引の可否が判断されているのが特徴です。
アフリカゾウは1989年に附属書Ⅰへ分類され、多くの国で国際取引が禁止されました。その背景には、密猟の激化と個体数の急減があり、国際社会が緊急的に対応する必要があったためです。一部地域(ボツワナ、ナミビアなど)では個体数が安定しているため、附属書Ⅱ扱いとされるケースもありますが、基本的に象牙の国際流通は非常に厳しく制限されています。この附属書分類が、現在の象牙取引ルールの基盤となっています。
1980年代、密猟による象の減少が深刻化し、CITESは段階的に規制を強化しました。まず輸出入には許可証が必要となり、その後1989年に全面的な国際商業取引の禁止が採択されます。以降、数回の例外的な一時輸出が議論されましたが、密猟悪化を懸念して多くの国が禁止維持を支持しています。現在、象牙の国際商業取引は原則禁止であり、個人の持ち出し・持ち込みについても厳格な規制が続いています。
日本では国際取引が禁止されている一方、国内での象牙取引そのものは全面禁止ではありません。これは1989年以前に合法的に輸入された象牙が大量に国内に残っているためで、管理しながら流通させる必要があったためです。国内では「種の保存法」に基づき、象牙の取扱事業者登録、在庫管理、証明書類の保存義務などが定められており、適切に登録された個体であれば国内での売買が可能です。ただし、無登録の取引は違法となるため注意が必要です。
象牙の取引で最も重要なのが「象牙登録制度」です。主に一本牙(原木)や特定の大きな加工品が対象となり、売買・譲渡する場合には登録票の取得が必須です。登録には象牙の写真、重量・寸法、入手経緯の証明(領収書、譲渡証明書など)が求められます。登録票がなければ買取店は取引できず、違法取引とみなされるリスクがあります。家庭に象牙がある場合は、まず登録票の有無を確認し、不足している場合は早めの手続きが重要です。
国内では登録済みの象牙であれば売却は可能です。ただし、近年は規制強化の影響で市場が縮小しており、買取条件は以前より厳しくなっています。登録票がない象牙は売ることができないため、手続きの有無が大きな分岐点になります。また、違法象牙と疑われる可能性があるため、信頼できる買取店で査定を受け、手続きや必要書類の確認をサポートしてもらうことが安全です。
象牙の国際取引はCITESで原則禁止されており、個人であっても象牙製品を海外に持ち出すことは極めて困難です。これは、海外へ持ち出される象牙が密猟品と混在することを防ぐためです。たとえ自宅に長く保管していた合法品であっても、国際的には「象牙である」だけで規制対象となります。そのため、旅行や移住の際に象牙製品を持って出国しようとすると、没収や罰則の対象になる可能性があります。
海外旅行・移住の際に象牙製の置物・根付・印材を手荷物に入れることは極めて危険です。多くの国では象牙製品の持ち込み自体が禁止されており、空港で没収されるだけでなく、罰金の対象となることもあります。特に欧米諸国は規制が厳しく、日本で合法でも海外では違法扱いになるケースがほとんどです。不要なトラブルを避けるため、象牙製品は国内に置いておくことが基本です。
象牙の輸出入規制に違反すると、没収に加えて罰金・禁固刑など重い罰則が科される可能性があります。悪意がなくても規制は免除されないため、知らずに持ち出してしまう行為も違反となります。特に国際的な密猟対策が強化されている現在、象牙に関する取り締まりは年々厳しくなっています。個人での国際持ち出しはほぼ不可能と考え、取引は国内で完結させるのが安全です。
適正に取引された象牙と違法品の最大の違いは、「入手経路が証明できるか」です。合法品には登録票や購入証明が付属し、いつどこで入手されたかが明確です。一方、違法品は証明がなく、形状・加工状態・刻印などから疑わしい点が多いのが特徴です。素人が判断することは難しいため、買取や売却を検討する場合は専門家の確認が不可欠です。
登録票は象牙が合法的に国内に存在している証拠となる重要な書類です。これがなければ売買ができず、買取店も取り扱えません。登録票があるかどうかは査定額にも影響します。また、象牙製品によっては登録の必要がないものもありますが、その場合でも購入時の領収書や来歴があると安全に売却できます。書類は失くさず保管しておくことが重要です。
象牙取引は法律の知識が不可欠なため、専門性の高い買取業者を選ぶ必要があります。登録制度に詳しいこと、適正な鑑定士が在籍していること、象牙の市場動向に精通していることが重要なポイントです。また、無登録の象牙を「買い取れる」と主張する業者は違法の可能性があるため、信頼できる店舗を選ぶことが安全なお取引につながります。
自宅に象牙製品がある場合、売れるかどうかは以下の3点で判断できます。
象牙といっても、種類や加工によって価値は大きく異なります。一枚牙の置物、彫刻の細かい根付、有名作家の印材などは評価が高い傾向にあります。また、美しい色味、透明感、割れの少なさも重要な価値ポイントです。反対に、破損があるものや加工が粗いものは評価が下がることがあります。
象牙の売却は、まず登録票の確認から始まります。次に専門店へ査定を依頼し、状態や市場価値を踏まえて見積もりが提示されます。納得すれば買取成立となりますが、その際に身分証や登録票の提出が必要です。書類が不足している場合は、事前に業者へ相談し、登録手続きの可否を確認するとスムーズです。
象牙は通常の廃棄物として捨てることができないため、適切な手続きが必要です。登録票がある象牙は買取店で売却できますが、不要な場合は環境省の窓口に相談し、指示に従って処分することが推奨されます。法律に沿った処理を行うことで、後々のトラブルを避けることができます。
フリマアプリやオークションサイトで象牙製品を出品することは、書類があっても規約違反になる場合が多く、注意が必要です。特に海外発送はほぼ確実に違法となり、アカウント停止や法的リスクが生じます。象牙の売買は専門業者へ相談し、確実な方法で行うのが安全です。
象牙の取扱には法律知識と市場理解が欠かせません。専門店へ相談することで、登録票の確認、査定価格の妥当性、売却時の手続きなどを一括して任せられます。違法取引の心配がなく、安心して手続きを進められる点が大きなメリットです。
象牙は国際的に厳しく規制されており、個人での国際持ち出しはほぼ不可能です。しかし、日本国内では登録制度を守ることで適正な売買が可能です。大切なのは、象牙の法律的な位置づけを理解し、手元の象牙が安全に扱える状況かどうかを確認することです。疑問点がある場合は専門店へ相談することで、安心して処分や売却を進めることができます。
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骨董・古美術に関する取材・執筆を長く手がけるライター。古道具店での実務経験や、美術商の仕入れ現場で得た知見をもとに、作品の背景や時代性を丁寧に読み解く記事を多数執筆。扱うテーマは掛け軸・陶磁器・工芸など幅広く、初心者にもわかりやすく価値のポイントを伝える記事づくりを心がけている。
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