骨董品
2026.08.31

蔵や実家の整理で出てきた古い掛軸や、シミ・カビが目立ってきた油絵。どこに直してもらえばいいのか分からない、そもそも直せるものなのかと悩む方は少なくありません。掛軸や絵画の修復は、額縁店やクリーニング店では対応できず、専門の表具師や絵画修復家に依頼する必要があります。
この記事では、掛軸・屏風・襖(ふすま)・絵画などの修復に対応している工房を全国から9社紹介するとともに、修復を依頼する前に知っておきたい基礎知識や注意点を編集部が整理しました。
※本記事は編集部が各社の公開情報をもとに作成しています。掲載順は優劣を示すものではありません。
修復は一度手を加えると元に戻せない工程を含むため、工房選びは慎重に行いたいところです。対応品目や修復方針など、工房ごとに特色が分かれるポイントを事前に押さえておくと、依頼後のミスマッチを防げます。ここでは依頼先を検討する際に確認しておきたい5つの視点を紹介します。
一口に「修復」といっても、掛軸・屏風・襖(ふすま)といった和の表具を専門とする工房と、油彩画・日本画などの絵画そのものを専門とする工房では、技術も設備も異なります。掛軸の修復を得意とする表具師が油彩画のクリーニングまで対応できるとは限りません。
まずは自分の作品の種類(掛軸か、額装の絵画か、屏風・襖かなど)を明確にし、その品目を扱っている工房を選びましょう。対応外の依頼を受け付けてもらえないケースもあるため、事前確認が重要です。
修復には「オリジナルを尊重し最小限の手を加える」という保存修復的な方針と、「見た目を整えることを重視する」という方針があり、工房によって考え方が異なります。特に欠損部分への加筆(補彩)をどこまで行うかは、工房ごとに方針が分かれるポイントです。
作品の歴史的価値を残したいのか、鑑賞用として美しく仕上げたいのかによって、合う工房は変わってきます。事前に修復方針を確認し、自分の希望と合っているか照らし合わせましょう。
寺院や美術館、博物館との取引実績がある工房は、文化財レベルの慎重な修復技術を持っていることが多く、一つの目安になります。
また、代表者の経歴(修復家としての研修歴や、専門機関での学び)が公開されている場合は、技術の裏付けとして参考にできます。個人の思い出の品であっても、実績のある工房に依頼することで安心感が高まります。
修復工房は全国各地に点在しており、必ずしも近隣にあるとは限りません。多くの工房は郵送での作品受け入れに対応していますが、大型の屏風や襖、破損の激しい掛軸などは輸送時のリスクを考慮し、出張対応が可能かどうかも確認しておきたいポイントです。
全国対応をうたっていても、実際の訪問対応エリアが限定されている場合もあるため、事前に問い合わせておくと安心です。
修復は作品ごとに状態が異なるため、価格は一律ではありません。見積もり時にどこまで詳しく状態を説明してくれるか、写真での仮見積もりに対応しているか、正式な見積書を発行してくれるかは、信頼できる工房かどうかを見極める材料になります。
依頼前のやり取りが丁寧な工房は、作業中・完了後のコミュニケーションも期待しやすいでしょう。
ここからは、掛軸・屏風・襖・絵画などの修復に対応している工房を全国から9社紹介します。所在地や対応エリア、得意な品目は工房ごとに異なるため、自分の作品やお住まいの地域に合いそうな工房を探す参考にしてください。
公式サイト:https://nomurakakejiku.jp/
1973年創業、1992年設立という歴史を持つ企業で、掛軸の製造卸を全国規模で展開する一方、表装・額装の修理修復にも力を入れています。垂水区の建物2階を修復専用の工房として構え、古い掛軸の仕立て直しから、扁額・欄間額・和額の修理、屏風や衝立の補修まで幅広く手がけています。兵庫県内の依頼者宅を実際に訪ねて現地調査や仕立て替えを行ったケースが複数紹介されており、アメリカ・ドイツ・オーストラリアなど海外からの修理依頼受付の実績もあります。掛軸の製造元だからこそ持つ知見を生かした、折れやシミ汚れへの対応実績も豊富です。
こんな方におすすめ:関西エリアで掛軸の表装・修理を相談したい方、掛軸の販売元にまとめて相談したい方
公式サイト:https://suginami-art-conservation.jimdofree.com/
2013年に杉並区で開業し、その後代表の出身地である名古屋にもアトリエを開設した工房です。代表は、フィレンツェ国際芸術大学で絵画修復を専攻した経歴を持ちます。国公立・私立を問わず美術館や博物館との連携を重ねながら、画廊や企業、個人の所蔵品まで幅広く保存修復を手がけてきました。中心となるのは油彩画やテンペラ画、現代アート作品の修復で、作品本来の姿をできる限り損なわないよう、必要最小限の処置にとどめる方針を掲げています。依頼から返却までの流れも整備されており、写真による見積もり、光学機材を使った損傷調査、修復後の状態撮影と報告書作成を経て、輸送時の梱包にも配慮した対応が取られています。
こんな方におすすめ:油彩画や現代アート作品の保存修復を、美術館クラスの専門家に相談したい方
公式サイト:https://www.matsumoto-shoeido.jp/
古くから続く書画専門の古美術商で、江戸時代の作品を中心に近世日本美術を数多く取り扱ってきました。長年培った古書画への審美眼を生かし、掛軸や屏風、額装の表装・修復・染み抜きの相談にも対応しています。自社工房を持つのではなく、信頼を積み重ねてきた複数の表具師と提携し、作品の状態や時代背景に合わせて最適な担当者を選ぶスタイルが特徴です。創業以来蓄積してきた古い時代裂のストックも豊富で、修復後の表装に生かされています。京都本店・東京オフィスのいずれも、完全予約制で相談を受け付けています。
こんな方におすすめ:古い書画の価値を踏まえた表装・修復を、古美術に精通した目利きに相談したい方
公式サイト:https://gekkadou.jp/
昭和11年に創業し、以来一貫して京表具の技術を守り続けている老舗工房です。掛軸を軸にしながら、額装・巻物・屏風・襖・衝立と幅広い表具を手がけています。仕立てを行うスペースと修復専用のスペースを分けて構えることで、大型の涅槃図のような掛軸にも対応できる体制を整えているのが特徴です。京都表具協同組合の会員でもあり、伝統技法を用いた本表装(手表装)にこだわった仕立てを続けています。
こんな方におすすめ:京表具の伝統技法にこだわって掛軸を仕立て直したい方、大型の掛軸や襖の修復を相談したい方
公式サイト:https://www.chobido.co.jp/
半世紀にわたって表装技術を磨いてきた工房で、機械表装ではなく職人による手仕事にこだわった修復を続けています。掛軸や巻物・和額・屏風・衝立といった書画表装から、寺院・美術館・博物館が所蔵する文化財・古文書の修復まで幅広く手がけており、家庭用の品物から宮家所有の作品まで実績があります。依頼を受ける際は来店での持込に加え、都内近郊であれば訪問しての引き取りにも対応し、さらに遠方の依頼者には梱包材を送付した上で郵送での受け入れも行っています。過去帳や墓石簿、和綴本といったオリジナル製品の制作・販売も手がけています。
こんな方におすすめ:掛軸や巻物、和本など和装の美術品を幅広くまとめて相談したい方
公式サイト:https://www.shogetsudo-hyoso.jp/
大正9年の創業から一世紀近く続く表装専門店で、現在は4代目が店を切り盛りしています。掛軸や額装・屏風・巻子・襖・障子といった一般的な表具の新調・修繕に加え、神社仏閣や美術館、公共施設が所蔵する文化財の修復も数多く引き受けてきました。全国の霊場を巡る巡礼表装にも力を入れており、依頼者は宅配便での作品発送のほか、来店持込や出張での見積もり相談も選べます。屏風の下地には伝統的な組子下地を採用するなど、素材選びにもこだわりが見られます。古民家や茶室空間の改装に表具師の視点を取り入れる活動も行っています。
こんな方におすすめ:襖や屏風を含めた表具全般をまとめて一つの工房に相談したい方
公式サイト:https://www.okayama-kakejiku.jp/
昭和60年の創業以来、代々続く表具業を営んできた工房です。かつては美術表装が業務の中心でしたが、ここ20年ほどは修理・修復に軸足を移しています。地域に多い日蓮宗寺院の曼荼羅修復や、真言宗寺院の仏画修復にも数多く携わってきました。修復方針としては、欠損部への加筆を行う復元修理を避け、作品が歩んできた時代の風合いをできるだけ残す姿勢を貫いています。岡山県内や近隣県であれば作品の直接引き取りに対応し、遠方の場合は専用の梱包箱を送る形で全国からの依頼を受け付けています。なお、対象は個人や寺院が所有する掛軸が中心で、販売目的の高級美術品は対象外となる場合があります。
こんな方におすすめ:オリジナルの状態をできるだけ尊重した、控えめな修復方針を好む方
公式サイト:https://www.syodou-hyousou.jp/
書道と水墨画の表装に特化した、愛知県小牧市の表具店です。作品そのものを引き立てることを信条に、伝統的な仕立てから現代的なデザイン表装まで幅広く提案しています。店舗から車で1時間圏内であれば、作品の預かりや納品時に訪問してもらうことも可能で、それ以外の地域からは郵送での依頼も受け付けています。日展や読売書法展、中日書道展をはじめとする展覧会への出品作品を数多く手がけており、搬入・搬出や会場での陳列作業まで対応する点も特徴です。
こんな方におすすめ:書道や水墨画の作品を、展覧会出品も見据えて本格的に仕立てたい方
公式サイト:https://www.tamakirakuzando.com/
神戸市東灘区で表具業を営む工房で、掛軸をはじめ額装・屏風・衝立・帖・巻子まで、和の表具全般を一手に引き受けています。確かな技術で表装の修復を行っており、着物や帯を屏風・額装に仕立て直す変わり種の依頼にも対応しています。人間国宝が漉く「名塩雁皮紙(間似合紙)」を扱っている点も、大きな特徴の一つです。依頼はメール・電話・FAXで受け付けており、遠方から作品を送る場合には追跡可能な配送方法を利用するよう案内されています。
こんな方におすすめ:思い入れのある着物や帯を表装に仕立てて、新しい形で作品とともに残していきたい方
修復は工房に任せきりにするだけでなく、依頼者側にもいくつか気をつけたいポイントがあります。特に自己判断での対処や輸送、方針のすり合わせは、仕上がりや作品の状態を左右する重要な要素です。ここでは依頼前後に押さえておきたい3つの注意点を紹介します。
シミやカビを見つけると、自分で拭き取ったり洗ったりしたくなるものですが、素材や状態によっては悪化させてしまう可能性があります。掛軸や絵画は紙や絹、絵具といった繊細な素材でできているため、市販の洗剤や消しゴム、水拭きなどの自己処理はかえって本紙を傷めたり、シミを広げてしまったりする原因になりかねません。
水や薬剤を使った自己処理は避け、まずは工房に現状のまま見てもらうことが望ましいでしょう。判断に迷う軽微な汚れであっても、専門家であれば適切な洗浄方法を見極めてくれます。
掛軸や絵画は折れや圧迫に弱いため、郵送で送る場合は工房の指示に従った梱包が重要です。特に掛軸は丸めた状態で送ることが多く、芯となる棒に緩みなく巻きつけていないと、輸送中の振動で折れジワが生じることがあります。
額装の絵画も、ガラス面への衝撃やダンボールのたわみによって絵具層が損傷するおそれがあるため注意が必要です。多くの工房では梱包方法のアドバイスや、必要に応じて梱包材の提供に対応しているので、不安な場合は事前に相談しましょう。
修復方針は工房によって異なります。「なるべく元の状態に近づけてほしい」「見た目を優先してほしい」など、希望がある場合は見積もり段階で伝え、対応可能かを確認しておくと安心です。
特に欠損部分への加筆(補彩)の有無や、染み抜きをどこまで行うかは仕上がりの印象を大きく左右するため、口頭だけでなく写真や見本を見せてもらいながら認識をすり合わせておくとよいでしょう。こうした事前確認を怠ると、完成後に思っていたイメージと違うというミスマッチにつながりかねません。
掛軸・絵画の修復を依頼する際によく寄せられる疑問を、期間や費用、依頼方法を中心にまとめました。工房探しの前にひととおり目を通しておくと、問い合わせ時に確認すべき点がより明確になります。
作品の傷みの程度や工房の混雑状況によって異なります。軽微な染み抜き程度であれば数週間、大規模な仕立て直しを伴う修復は数ヶ月かかることもあります。依頼時に工房へ目安の期間を確認しておくとよいでしょう。
今回紹介した工房の多くは郵送での作品受け入れに対応しています。ただし、大型の屏風や襖、破損が激しい作品は輸送リスクが伴うため、出張対応の可否も含めて事前に相談することをおすすめします。
多くの工房では、写真送付による仮見積もりや、作品を直接確認した上での正式見積もりを無料で行っています。ただし送料など別途費用が発生する場合もあるため、依頼前に確認しましょう。
掛軸の場合、修復の過程で古い裏打紙を剥がして新たに仕立て直すことが多く、修復と表装は一体的に依頼できる工房がほとんどです。品目によって工房の得意分野が異なるため、依頼したい内容を明確に伝えましょう。
和の表具(掛軸・屏風・襖)を専門とする工房と、油彩画などの絵画修復を専門とする工房は技術領域が異なるため、多くの場合は別々の工房に依頼することになります。両方お持ちの場合は、それぞれの専門工房に個別に相談するとよいでしょう。
掛軸・絵画の修復を依頼する際に大切なのは、作品の品目に合った専門性を持つ工房を選ぶこと、修復方針が自分の希望と合っているかを確認すること、そして見積もり内容が明確な工房を選ぶことの3つのポイントです。今回は全国9社の工房を紹介しました。掛軸か絵画か、どのエリアで対応してもらいたいかを軸に、まずは気になる工房へ写真を添えて仮見積もりを相談してみることをおすすめします。
品物の中に骨董品・美術品としての価値が見込まれるものが含まれる場合は、修復の前に専門業者に相談することで、価値を正しく評価してもらえる場合があります。だるま3では骨董品・美術品の査定を承っています。
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